
香港映画界が誇るキング・オブ・コメディ=チャウ・シンチー(周星馳)。「少林サッカー」(01年)「カンフーハッスル」(04年)の世界的な大ヒットで日本でもおなじみだが、彼の魅力は、ブルース・リーやジャッキー・チェンが生身のアクションにこだわったのに対し、CGをふんだんに取り入れた新しいカンフー映画の創出と、パロディや不条理な笑いまでも盛り込む幅広いコメディセンスにある。そのためクエンティン・タランティーノらハリウッドのクリエーターたちからも支持され、「不夜城」で知られる日本のハードボイルド作家・馳星周がペンネームの元ネタにした話も有名だ。去年公開された「ミラクル7号」では、ハートウォーミングなSFコメディに挑戦して新境地を見せた。
今回は、そんな彼が世界的な大ブレイクを遂げる以前の主演作3本「ラッキー・ガイ」「ハッスル・キング」「マイ・ヒーロー」をお届けしよう。喜劇王へと才能を開花させていく過程を確認できる、ファン垂涎のお宝映画ばかりだ。
まず「ラッキー・ガイ」(98年)は、「少林サッカー」を共同監督したリー・リクチーの監督作品。“行運(ラッキー)”をテーマに、エッグタルトが自慢の店で働く従業員と店長の息子たち3組の恋模様が描かれる。シンチーは主人公の1人で、自称プレイボーイの看板従業員だが実はトラウマを抱えている、という役どころを軽妙に演じている。3組の男女の恋愛が巧妙に絡み合ってハッピーエンドへとなだれ込んでいく展開が上手く、カンフー・アクションこそ少ないが、最後にはしっかり対決シーンまで用意されている。群像劇としても秀逸だ。そして何より、「少林サッカー」のシュートがゴールキーパーをゴールポストごと吹き飛ばすように、そこまでやるか!という“やり過ぎ”をギャグとして笑いに転化させた上で、観客をも“行運”にしてみせる手腕は、のちの「少林サッカー」へと見事に受け継がれている。
次は、ほぼ同時期に製作された、カレン・モク共演の時代劇「ハッスル・キング」(97年)。“策略王”の異名をとる並外れた頭脳を持ちながら、悪戯やナンパのためにしか生かしていなかった弁護士が、愛弟子のピンチに立ち上がる。前半は、ふざけた主人公のキャラクターの魅力で引っ張るドタバタ劇で笑わせ、後半になると一転、殺人罪に問われた弟子の命を救うべく、法廷での丁々発止のやり取りが繰り広げられる。痛快コメディと法廷サスペンス。これ1本で2種類の映画が楽しめる仕掛けだ。
この2作品で、すでにシンチーは得意の硬軟自在の演技力を存分に発揮しており、ブレイクが近いことをうかがわせる。それに対して「マイ・ヒーロー」(90年)のシンチーは、まだ20代と若く、黒社会に飛び込んだお調子者を体当たりで演じている。日本でいう、いわゆるヤクザ映画にあたり、スタイリッシュなアクションと、厚い友情を絡めた青春ストーリーを見どころに、ハードボイルドで哀切なドラマが展開される。とは言え、そこは香港映画のこと。笑いの要素も程よく散りばめられている。それを担っているのがシンチーで、本作で初めてコミカルな役回りを演じた彼が、ハードボイルドな世界の中で一服の清涼剤のように機能している点に注目したい。これは彼がコメディ俳優として第一歩を踏み出した記念すべき作品なのだ。ブレイク以降の彼の作品と見比べてみると、20代ですでにコメディ・スターの片鱗を感じさせていた原石が、ダイヤモンドの輝きを放つまでに要した10年という歳月が迫ってきて、感慨もひとしおである。
文・外山真也
2009.11.6更新
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