
“動けるデブ”として80年代に一世を風靡した香港のカンフー・スター、サモ・ハン・キンポー(洪金賓)。芸風はジャッキー・チェン同様、素手や剣術だけでなく日常にあるもの、例えば椅子や梯子なども巧みに活用するカンフー・コメディの名手だ。しかも、それを太った体躯でやってのけるから、見ていて痛快極まりない!
CGを駆使したアクションや複雑でリアルなドラマ性が重視された90年代こそ低迷したものの、今世紀になって、カンフー・ブームに沸くハリウッドへ招かれたことから見事に復活。監督やプロデューサーとしても評価の高い彼は、今や香港映画界の重鎮であり、「SPL/狼よ静かに死ね」(05年)「カンフーシェフ」(08年)「三国志」(08年)などで未だ衰えない雄姿を見せている。今年60歳になるが、まだまだ現役バリバリのアクション・スターである。
サモ・ハンのサモとは「三毛」の意で、幼少時からのニックネーム。生まれたときに髪の毛が3本しかなかったからとも、中国の人気漫画「三毛流浪記」の主人公にちなんだとも言われている。10歳から、ジャッキー・チェンも通った中国戯劇学院で京劇を学び、同時に子役として多くの映画に出演。71年からはゴールデン・ハーベスト社に所属して、武術指導&俳優として活躍する。そこでブルース・リーに認められて「燃えよドラゴン」(73年)に出演すると、このカンフー映画の金字塔をパロディにした「燃えよデブゴン」(79年)の監督&主演で、大ブレイクを果たしたのだった。
今回は、人気を得て以降に続々と日本に輸入された「燃えよデブゴン」シリーズの中から、3作品(「燃えよデブゴン カエル拳対カニ拳」「燃えよデブゴン 豚だカップル拳」「痩せ虎とデブゴン」)を紹介したい。シリーズといってもストーリーに関連性はなく、1作目のヒットにあやかってサモ・ハン主演作の邦題には、決まって「燃えよデブゴン」または「デブゴン」がつけられただけのこと。現時点で、ビデオ化やテレビ放映を含めて17タイトルが確認できる。
では、まず「燃えよデブゴン カエル拳対カニ拳」(78年)から。マルコ・ポーロの息子ポポゆかりの不死身の鎧“不可視鎧”をめぐって、サモ・ハンとラウ・カーウィン(ブルース・ラウ)が繰り広げるカンフー・コメディだ。ラウ扮する行きずりの相棒にいいように使われる役柄ながら、カンフー技の切れ味ではサモ・ハンが一枚上手。ほうきなど日常の道具を操る得意のコミカルなカンフーで、魅了してくれる。ラウの二枚目的な技とのコントラストも見事だ。「燃えよデブゴン 豚(トン)だカップル拳」(79年)は、時代劇。ふざけた邦題だが、なかなか凝った内容で、もちろん「翔んだカップル」とは何の関係もない。カップルとは、サモ・ハンとラウ・カーウィンのコンビのことだろう。ライバル関係にある刀と槍のカンフー流派による10年越しの対決を描く。サモ・ハンとラウが、それぞれ老師匠と弟子の2役を演じているのだが、デブのサモ・ハンには代役のスタントが使えないため、老師匠と弟子が同じ画面に存在できない。そこで、4人が入り乱れるシーンをアナログな創意工夫で乗り切っており、CG全盛の今のアクション映画とは一味違う、手作り感を楽しめる。
もう1本の「痩せ虎とデブゴン」(90年)は、一転して刑事アクション。カール・マッカ扮する痩せ虎とサモ・ハンの凸凹刑事コンビが麻薬組織を追い詰める、典型的なバディ・ムービーだ。当然ながらカンフーだけでなく、銃撃戦やカー・チェイスも楽しめる。とりわけサモ・ハンが披露するブルース・リーのモノマネがケッサク! 3作とも、頼りなくも愛すべきデブキャラと高い身体能力の意外性が見どころ。しかも、ファンにとっては希少なお宝作品であり、サモ・ハンを知らない若い世代にとっては新鮮な驚きが詰まっている。彼の全盛期の充実した仕事ぶりを、存分に味わってほしい。
文・外山真也
2009.10.23更新
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