
「リング」「着信アリ」シリーズなどでJホラー・ブームをリードしてきた角川映画。今週は、そのノウハウを駆使して気鋭の監督たちが競作したショート・ホラー9作品をご紹介しよう。題して「角川シネマアンソロジー」シリーズ。小池真理子、綾辻行人、森村誠一、高橋克彦、さらには赤川次郎といった人気作家たちの短編を素材に、民間伝承からお化け屋敷、死神、コメディタッチのものやトリッキーなサスペンスまで、幅広いジャンルのホラー系作品がそろった。もちろん日本産のホラーには、黒髪の美少女が欠かせない。栗山千明、山口紗弥加、水川あさみ、つぐみ、前田亜季ら女優陣も、このアンソロジーの見どころの1つである。
まず、小池真理子原作の「命日」は、山口紗弥加と水川あさみが演じる、洋館に移り住んだ美人姉妹を襲う地縛霊の恐怖を描く。直木賞作家で恋愛小説の名手として知られる小池だが、「墓地を見下ろす家」などホラーの秀作も多い。それだけに本作も、9作中で最も純粋に精神面の恐怖を追求したモダンホラーに仕上がっている。監督は「免許がない!」の明石知幸。 同じく明石監督の「セコイ誘拐」は、一転してコメディタッチのシニカル・サスペンス。幼い愛娘を誘拐された益岡徹扮する主人公が、知り合いの金持ちの孫を誘拐して身代金を工面しようとするが…。人間の欲が生む悲喜劇だ。原作は五十嵐均。「赤い鼻緒の下駄」の原作は、文豪・柴田錬三郎の怪談もの。ある男が25年前に田舎の禅寺で体験した不思議な出来事を振り返る。寺の謎めいた娘を演じる栗山千明は、まさにホラーの申し子。それほど怖い話ではないにもかかわらず、彼女がこちらを見て立っているだけで、画面に底冷えのするような恐怖が広がる。監督は「青い鳥」の中西健二。 森村誠一原作の「行きずり殺意」は、夫が出張中の家庭に若い強盗が押し入る心理サスペンス。若村真由美の若妻と高岡蒼佑の強盗の間に、次第に奇妙な共感が芽生えるが…。本当に怖いのは強盗ではなく、マンションの隣人というのがシニカルだ。こちらも中西健二が監督。 そして、筆者がイチオシしたいのは、綾辻行人原作の「再生」。指や足を切断されてもトカゲのしっぽのように再生する呪われた身体を持つ、つぐみ扮する教え子に翻弄される大学教授の苦悩を描く。「富江」のような、男を狂わす“ファムファタール”の魔性性はなく、恋愛の本質を突いた究極のラブストーリーと言えよう。つぐみの笑顔は、「富江」以上の怖さだが。監督は新鋭・佐藤隆之。
高橋克彦原作の「幽霊屋敷」は、テーマ自体は“恐怖”ではなく、むしろ父娘の絆なのだが、「呪怨」を彷彿させる恐怖描写がふんだんで、ある意味、シリーズ中で一番怖いかも。事故で死んだ娘の霊に会うため、荒れ果てたかつての娘の家を訪れた父親の恐怖体験を描く。大井利夫監督作。「十代最後の日」は、赤川次郎が原作。3年前、海で溺れた彼女を救うため、死神に自分の命を売った大学生に、タイムリミットが迫っていた…。主演は前田亜季と辻本祐樹。恐怖の追求よりもサスペンスに主眼を置いた作品ながら、オチの怖さは9本中屈指。はっきり言って背筋が凍る。佐藤隆之監督作。 明石監督が高橋克彦の原作に挑んだ「ささやき」は、青春時代の郷愁と民間伝承の恐怖が融合したような、高橋作品らしい1本。数年ぶりに故郷に戻った放送作家を、昔の恋人の怨念が待ち受ける。ヒロイン役はショートヘアが可憐な水橋貴巳で、どんでん返しが効いている。 最後に、「無限暗界」は森村誠一の短編が原作で、交通事故を機に、顔は妻に生き写しながら性格は正反対の美女に魅了されていく男の物語。麻生佑未が対照的な2役で、渡辺いっけいを翻弄する。悪霊ものと思わせて、実は…というラストが怖い。監督は芳田秀明。
ただ怖いだけでなく、人間の心の闇を暴く作品から、短編ならではの緻密に構築されたホラー、さらには怖いのは苦手という人でも大丈夫なホラー・テーストのサスペンスまで、豊富に取りそろえた珠玉のラインナップ。さて、アナタはどれから見る?
文・外山真也
2009.8.21更新
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