
麻生久美子の活躍が目覚ましい。5月後半から6月にかけて、主演級の映画が立て続けに3作品も公開される。テレビ「時効警察」で組んだ異才・三木聡が監督した単独主演作「インスタント沼」(5月23日公開)、V6の岡田准一と共演した「おと・な・り」(5月30日公開)、松山ケンイチ共演の「ウルトラミラクルラブストーリー」(6月6日公開)だ。いずれも等身大の女性ながら、麻生らしいトボけた味わいがスパイスされた癒し系のヒロイン像で、見る者の共感を誘う。
予兆はあった。昨年公開された一連の助演作(「純喫茶磯辺」「たみおのしあわせ」「コドモのコドモ」etc.)を見れば明らかだろう。こんなに奥行きのある女優だったのか?と、正直、演技者としての大きな飛躍に驚かされた。気鋭の監督たちがこぞって起用したがるのも当然と言える。彼女に何があったのか? 2007年末に結婚したことが大きい。とはいえ、新たに既婚女性や主婦の役に挑戦している訳ではないのだから、プライベートの安定により、本来持っていた才能を発揮しやすくなったと見る方が自然だろう。つまり着実にキャリアを積んできたことが、結婚を機に、大きな果実を実らせたのだ。
今回は、そんな彼女の種まき期に当たる2作品「ニンゲン合格」「回路」を紹介したい。
1995年のデビュー以来、映画を中心に活躍を続ける麻生久美子。巨匠・今村昌平の「カンゾー先生」(98年)で日本アカデミー賞の助演女優賞に輝くなど早々にブレイクし、注目が集まる中で出演したのが、「ニンゲン合格」(98年)だった。西島秀俊扮する昏睡状態から10年ぶりに目覚めた主人公が、バラバラになっていた家族の再生を試みる話だ。「カンゾー先生」で見せた、モンペが似合う褐色の肌や、海中で乳首が透けて見える自然なお色気、どっしりした安産型の体形など、土着的で健康的な魅力から一転、ここでは、子供のような兄に振り回されながらも共鳴して集まる、現代っ子の妹を演じている。
一方、主人公の1人を演じたホラー映画「回路」(00年)では、同僚が次々と生気を失くして消滅してゆく様を目の当たりにしながらも、最後まで生き延びる語り部(目撃者)的な役回りで、映画を支えている。「カンゾー先生」と並ぶ初期の代表作だ。同時に、幽霊による地球侵略を描いてハリウッド・リメイクもされた、日本SFホラー史の画期的な傑作という意味でも必見である。
そして、この2本は、どちらも黒沢清の監督作だ。「ニンゲン合格」は黒沢が初めて挑んだ“人間ドラマ”であり、「回路」は得意の“ホラー”における集大成。日本だけでなく世界的に見ても独特のポジションを占めるカリスマ監督として、変貌を遂げていく時期の2作品であり、今思えば、麻生にとっても重要な意味を持っていた。新作「ウルトラミラクルラブストーリー」の監督・横浜聡子は、黒沢の映画美学校での教え子。しかも、麻生の役柄を要約すると、子供のような青年に振り回される女性…つまり、「ニンゲン合格」の変奏なのだ。横浜監督に限らず、昨今こぞって麻生を起用している萩生田宏治、吉田恵輔ら若く才能あふれる監督たちにとっても、黒沢は尊敬すべき対象であり、多くの面で影響を及ぼしている。さらに付け加えると、「おと・な・り」で麻生が演じるのは花屋で働く女性。「回路」と同じである。
いまや名実ともに日本を代表するトップ女優となった麻生久美子。彼女が試行錯誤を繰り返しながら、2本の黒沢作品でまいた種が、ここへきて見事な花を咲かせたのである。
文・外山真也
2009.5.8更新
(C)1998角川映画,(C)角川映画NHI 2001,(C)2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ







