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西洋的な新しいヒロイン像を生んだ増村保造とのコラボ 若尾文子

1950~60年代に、約160本もの映画に出演し、京マチ子、山本富士子と並ぶ大映の看板女優だった若尾文子。溝口健二、小津安二郎、山本薩夫、増村保造、川島雄三といった、そうそうたる巨匠たちに愛され、数々の名作を生み出してきた。とりわけ増村保造とのコラボは有名で、20作を数える。
だが、最近は女優というより“故・黒川紀章の妻”というイメージが強い。極端に女優活動を抑えているためだろう。実際、71年に大映が倒産して以降は、わずか2本(「竹取物語」「春の雪」)の映画にしか出演していない。活況を呈する今の日本映画界への、一刻も早い復活を期待したい。
そこでゴールデン・ウイークの今週は、黄金コンビだった増村保造監督作の中から選りすぐりの4本(「妻は告白する」「卍(まんじ)」「清作の妻」「赤い天使」)を紹介しよう。52年のデビュー当初から、庶民的な魅力とアンニュイな官能性を併せ持っていた若尾だが、この両面性は、増村作品において一際輝きを放っていたように思われるから。

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(C)角川映画

まず、2人の共作の中でも代表作と言われるのが「妻は告白する」(61年)だ。と同時に、若尾にとっても、演技派女優として開眼した記念碑的な作品である。本人も「女優として越えるべき最初の山だった」と語っているほど。北アルプスの登山中に、3人の男女が1本のザイルで岸壁に宙吊りになる。真ん中にいた妻がナイフでザイルを切り落とし、夫が転落死する。しかも、上にいた青年を妻は心から愛していた。果たして殺人か? 殺意の有無を問う裁判が始まるが…。恐ろしいまでの愛に生き、やがて狂気へと陥ってゆく妻を、若尾が全身全霊で演じている。サスペンスフルな法廷劇から、終盤、恋愛の本質を突いたメロドラマへと昇華する展開も秀逸だ。
谷崎潤一郎の官能小説を映像化した「卍(まんじ)」(64年)は、岸田今日子との同性愛描写が話題を呼んだ異色の恋愛映画。増村と言えば、イタリア留学でフェリーニやヴィスコンティに薫陶を受けた西洋的な作風が身上のため、極めて日本的な谷崎文学とは相性が悪い。だが、そのことが却って若尾の“肉”の魅力という長所を際立たせている。本作を観ると、同性と異性が入り乱れた愛欲世界は、バタ臭い西洋的な器の方がふさわしいと思えてくる。
「清作の妻」(65年)も、2人の代表作の1本。すでに確固たる地位を築いていた巨匠とトップ女優が、さらなる女性の狂気を描いて円熟の極みに達している。愛する夫を戦争に生かせないように、五寸釘で夫の両眼を潰すヒロインの激情が凄まじい衝撃作だ。

 
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そして、従軍看護師の愛を描く異色の戦争映画「赤い天使」(66年)。実は4本の中で1番のオススメはこれ。日本よりもフランスで人気の高い作品で、リアリティ溢れる増村の演出や人間性をマヒさせる戦争の怖さを暴くメッセージ以上に、とにかく若尾が素晴らしい。清潔感と官能性、か弱さと逞しさ、従順さと愛に生きる女の強固な自我。相反する2面性が違和感なく同居した特異な女性像を、他の誰がこれほど自然に体現できよう!
戦場ゆえの従順な“萌えキャラ”である本作のヒロインは、時に男を菩薩のように慈愛で包み、時にファムファタールとなって翻弄するのだから。
西洋的な個人主義を取り入れ、時代に抗って自我を貫くモダンなヒロイン像を確立した増村保造。新しい日本映画の可能性を拓いた彼の功績は、若尾文子という無二の女優なくしてはありえなかったはずだ。

文・外山真也

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2009.4.24更新

 

 

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