
薬師丸ひろ子のフィルモグラフィーを見ると、初期には1980年代の日本映画を担った傑作が並ぶ。「翔んだカップル」「セーラー服と機関銃」「探偵物語」「Wの悲劇」etc.。今週は、その中から「ねらわれた学園」「セーラー服と機関銃」「メイン・テーマ」「Wの悲劇」を紹介しよう。
彼女の魅力は、意志の強さを感じさせる大きな瞳と、透明感のある声。だが、そんな圧倒的な才能とは対照的に、立ち居振る舞いはどことなく不器用で、洗練やシャープなイメージとは程遠い。歌番組で見せたはにかんだ表情などは、素人そのものだった。このギャップこそ、薬師丸ひろ子が女優としてもアイドルとしても成功した理由ではないだろうか? 相米慎二、澤井信一郎、大林宣彦といった青春映画の名手たちが、彼女のギャップに共鳴して生まれた、80年代前半を代表する4作品である。
まずは、赤川次郎原作の「セーラー服と機関銃」(81年)から。初主演映画「翔んだカップル」で組んだ相米監督との2度目のコラボ作だが、見事な完成度を誇った前作と比べると、荒削りな印象は否めない。原因の1つは、半年後に19分長い「完璧版」が公開されたことからも分かるように、上映時間の都合で物語上重要なシーンがカットされたためだ。それでも、彼女が歌う同名主題歌も含めて空前の大ヒットを記録。彼女ばかりか監督も脚光を浴びることとなる。実際、アイドル映画とは一線を画した強烈な作家性は“相米節”と称せられ、“長回し”を駆使した映像表現は伝説となっている。例えば、薬師丸のブリッジ体勢での初登場や、二日酔いのヒロインが猫のように転げながら交わす会話など、天才的な演出手腕に舌を巻く。また、機関銃をぶっ放し「か・い・か・ん!」とつぶやく有名なシーンをはじめ、青春が横溢する数々の名場面に彩られた本作は、ストーリーや構成上の欠陥など物ともしない傑作に仕上がっている。
往年の日本映画の伝統を受け継ぐ優れた演出家・澤井信一郎にとっても代表作と言える「Wの悲劇」(84年)は、薬師丸の7本目の主演映画。原作は夏樹静子の推理小説だが、劇中で演じられる舞台劇として登場するのみで、物語の軸に舞台女優を志す主人公の成長を据えた大胆な脚色が施され、青春映画の性格が色濃い。そして、看板女優のスキャンダルを利用して劇団内で成りあがっていく若手女優を演じた薬師丸は、“アイドル”から“女優”へと一足飛びに飛躍してみせた。「顔はぶたないで、私女優なんだから」という名セリフも、「か・い・か・ん!」と並んで彼女の代名詞となっている。
「ねらわれた学園」(81年)は、薬師丸の主演第2作。監督は青春映画の巨匠・大林宣彦で、眉村卓によるSF青春小説の舞台を薬師丸に合わせて中学校から高校に変更、超能力を持ってしまったがため、戦いに巻き込まれるヒロインの苦悩を自然体で演じている。松任谷由美が歌う主題歌「守ってあげたい」も大ヒットした。 最後は、森田芳光監督と組んだ主演第6作「メイン・テーマ」(84年)。失業したヒロインが、マジシャン見習いの青年(野村宏伸)と4WDで旅する恋愛ロードムービーだ。「Wの悲劇」で演技派開眼する直前の作品だけに、薬師丸らしい自然体の演技も今では新鮮である。
この4作品は、アイドル女優としてブレイクし演技派へと変貌を遂げていった、“薬師丸ひろ子”という偉大なブランドの成長の軌跡である。とりわけ「セーラー服と機関銃」「Wの悲劇」は、80年代を代表する青春映画の金字塔で、未だに色褪せない輝きを放つ。
なお「探偵物語」は特集「松田優作」から、デビュー作「野性の証明」も特集「読んでから見るか、見てから読むか」から視聴できるので、併せてチェックを。
文・外山真也
2009.4.17更新
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