
“多作”と“バイオレンス”で知られる三池崇史の活躍の秘訣を、先週の前編では“バランス感覚”にあると紹介した。確かにバランス感覚こそ、20年近くにわたって彼の監督活動を支え、唯一無二の存在たらしめている要因と言えるのだが、その作家性と職人気質のバランスが絶妙の黄金率で崩れることにより、奇跡が生まれた時期があった。「DEAD OR ALIVE 犯罪者」「オーディション」「殺し屋1」などの傑作が撮られた2000年前後である。
今週の後編では、そんな時代を代表する1本、「DEAD OR ALIVE 犯罪者」(99年)をイチオシで取り上げたい。これは、当時“Vシネマの両雄”と言われた哀川翔と竹内力が初共演を果たしたバイオレンス映画で、役者の存在感に三池監督の才能が化学反応を起こした代表例だろう。しかも、この映画の面白さは“紙一重”。衝撃のラストを含め、一歩間違えばコメディにも実験映画にも堕ちかねなかった、まさに奇跡の傑作なのだ。
恐らく、三池崇史は直感型の映画作家なのだろう。こんなふうに自己分析している。
「(俺は)間違いなく、世界で一番映画を観ていない映画監督でしょう」(鷲津義明著「恐怖の映画術」より)
もちろん、冗談として自虐的に言った言葉なので、鵜呑みには出来ない。だが作品を観れば、映画史的なバックボーンや観客の反応よりも、自分が面白いと感じるかどうか、つまり自らの感性に忠実に映画を作っていることは明白だ。でなければ、「DEAD OR ALIVE 犯罪者」のような発想の映画が撮れるはずがない。
そして、そんな奇跡の時代を過ぎても、創作意欲がいっこうに衰えないのが、三池監督のバランス感覚の凄いところ。以後も、映画史的に重要なポジションを占める作品を着実に放ってゆく。2004年の柴咲コウ主演「着信アリ」は、世界に衝撃を与えた一連の“ジャパニーズ・ホラー”の中でも傑出した大ヒットを記録し、ハリウッド・リメイクもされた。「妖怪大戦争」(05年)は、1968年の同名大映作品(特集「昭和の特撮」を参照)のリメイクだが、妖怪映画というより冒険ファンタジーの色合いが強く、ファミリー・ムービーに一石を投じる“三池節”がふんだんに盛り込まれ、公開中の大作「ヤッターマン」と多くの点でリンクする。
そして、トビー・フーパー、ダリオ・アルジェント、ジョン・カーペンターら、そうそうたるホラー映画界の巨匠たちが参加したアメリカのケーブルテレビの企画「マスターズ・オブ・ホラー」で唯一の日本人監督作「インプリント~ぼっけえ、きょうてえ~」(05年)を忘れてはなるまい。「オーディション」「殺し屋1」につながる必見作で、その残虐描写ゆえにアメリカでは結局放送中止になった、曰くつきの作品なのだ。
自分が面白いと思える映画を撮り続けることで、世界にその名を轟かせてきた直感型の映画監督・三池崇史。そういう人を世間では、「天才」と呼ぶ。
文・外山真也
2009.3.6更新
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